映画の中の悲劇の恋人同士のように
切なさに溺れてもいいかしら。

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 ある軍の中。ふたりは恋人だった 。
男は若い優秀な士官で明日は戦局を左右するような重要な任務にのために行ってしまう。 成功率は高いと思われた。だから男は恋人の女のふさぎ込みようが不思議だった。 いつも冷静で、感情をそんなにはっきり表に出すタイプではなかったから。

 女が暗く沈んでいたのには理由があった。 実は女はスパイだったのだ。 その重要な任務をぶち壊さなければならない。それも軍に大打撃を与えるようなやり方で。 それは、男の命を奪うに等しいこと。 けれど任務を放棄すれば、故郷の家族がどうなるかわからない。 女は胸が張り裂けそうになった。一人の女としての行動が許されないのがこれほど苦しいとは。

 そして女は1つの選択をした。

 彼の手にかかる。

 けしかけるのは簡単だと思った。 男を殺そうとするふりをすればいい。 スパイだとばらして、恋愛感情なんてなかったと言って、 わざと隙だらけにして、反撃しやすいようにすればいい。 そうすれば国を裏切ったことにはならない。 その選択は彼を苦しめるだろうということはわかっていた。 しかし女にはそれ以外の方法が思いつかなかった。 家族を必要以上の危険にさらさず、男を死なせないためには。

 女は男の背中のぬくもりを覚えておきたいと思った。